長く続く腰の違和感に悩んでいる人の中には、「運動をしたほうがいいのか、それとも安静にするべきなのか」と迷っている方も多いのではないでしょうか。運動が良いという意見もあれば、無理に体を動かさない方がいいという声もあり、どちらが正しいのか分かりにくいものです。
この疑問について、新宿の鍼灸整骨院で院長を務める柔道整復師の鈴木謙士先生は「重要なのは鍛える筋肉の種類とバランスです」と説明します。腰の状態を改善するためには、ただ筋肉を増やすだけではなく、体の仕組みに合ったトレーニングを行うことが大切だといいます。
腰の不調はさまざまな要因が重なって起こると考えられています。これまで多くの専門家が「血流の状態」や「日常の姿勢」といった視点から腰の問題を解説してきましたが、実はこれらの要素は筋力とも密接につながっています。
例えば、血流の低下は体の冷えにつながることがあります。体温を生み出す大きな役割を担っているのが筋肉です。そのため筋肉量が少ない場合、体が冷えやすくなる傾向があります。特に女性に冷えを感じる人が多いと言われる背景には、このような体の仕組みが関係していると考えられています。
一方で姿勢の問題も筋力と深く関わっています。人間の体は、さまざまな筋肉によって支えられていますが、その役割には大きく分けて二つの種類があります。体を大きく動かす筋肉と、姿勢を安定させる筋肉です。
一般的に体を動かす筋肉はアウターマッスル、体を内側から支える筋肉はインナーマッスルと呼ばれています。姿勢が崩れてしまう場合、多くはインナーマッスルが十分に働いていない状態であることが少なくありません。
本来はインナーマッスルが担うべき体の支えを、アウターマッスルが代わりに補おうとすると、筋肉に負担が集中してしまいます。その結果、筋肉が過度に働き続ける状態になり、腰まわりに違和感が生まれるというケースもあります。
そのため、運動が必ずしも逆効果というわけではありません。ただし、インナーマッスルが十分に機能していない状態でアウターマッスルばかりを鍛える運動を続けると、かえって体への負担が増える可能性があります。大切なのは筋肉の役割を理解し、バランスよく体を整えることです。
鈴木先生の整骨院では、トレーニングを始める前に患者一人ひとりの目標を確認することからスタートします。腰の不調によって諦めていることや、将来やってみたいことを聞き、その目標に向けて体づくりのプランを考えていきます。
例えば、登山を楽しみたい、ペットと長く散歩をしたい、日常生活をもっと快適に過ごしたいなど、人によって目的はさまざまです。その目標に合わせてトレーニングの内容や強度を調整していきます。
一般的なスポーツジムでは筋肉量を増やすことやパワー向上を目標にすることが多いですが、整骨院でのトレーニングは少し異なります。まずは体の状態を整えることが優先されます。
具体的には関節の可動域、神経の反応、筋肉の持久力などを確認し、無理なく動ける体づくりから始めます。パフォーマンスを高めるのはその後の段階です。
体のコンディションを整える方法の一つとして、インナーマッスルを刺激する機器が使われることもあります。EMSと呼ばれる装置で、電極を装着することで筋肉にやさしく刺激を与え、普段意識しにくいインナーマッスルの働きをサポートします。
細身の人の場合でも、必ずしも筋力が不足しているとは限りません。代謝が高く、自然と体型がスリムな人もいます。しかし筋力が十分でない状態で高い負荷のトレーニングをいきなり行うと、体に負担がかかる可能性があります。そのため、段階的に体の準備を整えることが大切です。
また、筋力が低下しやすい高齢の方にとっても、体を支える筋肉を鍛えることは重要とされています。転倒やつまずきを防ぐためにも、体幹の安定は日常生活の安心につながります。年齢に関係なく、適切なトレーニングを続けることで体の状態を維持することは可能です。
自宅でも取り組みやすい運動として、体幹を安定させる「プランク」という姿勢があります。腕立て伏せの姿勢で肘を床につけ、体を一直線に保つことで体幹の筋肉を鍛える方法です。また、立った状態で片足を伸ばしてゆっくり持ち上げる運動も、バランス感覚と体幹の安定に役立つとされています。
腰の悩みを抱えている人にとって大切なのは、今の生活環境や体の使い方を見直すことです。無理をせず、専門家と相談しながら自分に合った目標を設定することで、少しずつ体の状態を整えていくことができます。
そして多くの専門家が共通して指摘している重要なポイントが、体を内側から支えるインナーマッスルの存在です。腰のケアを考えるうえでは、筋肉の量だけでなく「どの筋肉をどのように使うか」という視点が大きな鍵になるといわれています。
